
はじめに
「特定地域」とは?
特定地域とは、人口減少や介護サービス需要の縮小により、従来の介護保険制度だけでは介護サービスの維持・確保が難しい地域を対象として、都道府県が指定する地域です。
2040年を見据えた介護提供体制の見直しの一環として、2026年6月19日に成立した改正介護保険法で新たに創設されました。人口減少や介護人材不足が進む地域でも、必要な介護サービスを維持することを目的としています。
この記事では、特定地域制度の概要や創設された背景、指定基準、介護事業者への影響についてわかりやすく解説します。
※本コラムは2026年6月末時点での情報です。制度の詳細は今後の議論により変更されます。
●このコラムのポイント
- 特定地域制度は、人口減少や介護人材不足が進む地域でも介護サービスを維持するために創設された新たな制度
- 対象地域では、人員配置基準の柔軟化や包括評価(定額払い)の導入など、地域の実情に応じた新たな仕組みが検討されている
- 制度の対象地域だけでなく、多くの介護事業者にとって、地域の将来を見据えた経営戦略や法人間連携を考える契機となる制度
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・M&AでICT・AI導入は評価されるのか?買手が見る介護事業の“企業価値”の考え方
目次
「特定地域」とは
特定地域の概要
特定地域とは、人口減少や介護サービス需要の縮小により、従来の介護保険制度だけでは介護サービスの維持が難しい地域を対象に、サービス提供体制を維持・確保するため創設された制度です。
2040年に向けて人口構造が大きく変化する中、中山間地域や人口減少地域では、高齢者人口や介護サービス利用者数の減少、人材不足などにより、従来と同じ仕組みでは介護サービスを維持することが難しくなることが見込まれています。こうした課題に対応するため、介護保険法の改正が2026年6月19日に成立しました。
なぜ特定地域が創設されたのか
介護保険制度は2000年の創設以来、「全国どこでも必要な介護サービスを受けられること」を基本理念として運営されてきました。
しかし2040年に向けて、
- 高齢者人口の地域差が拡大する
- 生産年齢人口が減少する
- 介護人材不足がさらに深刻化する
といった課題が見込まれています。
特に人口減少地域では、
- 利用者が減る
- 働き手も減る
- 事業所の採算も厳しくなる
という状況が同時に進むことが想定されています。
このような背景から、全国一律の制度では地域の介護サービスを維持できなくなることが懸念され、「地域の実情に応じた介護提供体制」へ転換するため、特定地域が創設されました。
地域ごとの課題に応じた介護提供体制への転換
今回の改正では、全国一律の介護提供体制を前提とするのではなく、地域ごとの人口動態や介護需要に応じた提供体制へ転換するという考え方が示されています。そのため厚生労働省は、2040年を見据えて全国を大きく3つの地域類型に整理し、それぞれの地域に応じた施策を進める方向性を打ち出しています。
| 地域区分 | 特徴 | 今後求められる対応 |
|---|---|---|
特定地域 (中山間・人口減少地域) | 高齢者人口・介護需要ともに減少 | サービス維持を目的とした柔軟な制度運用 |
| 一般市等 | 一時的に需要は増えるが、 その後減少へ転じる地域もある | 将来を見据えたサービス提供体制の見直し |
| 大都市部 | 2040年頃まで介護需要が増加 | 人材確保やICT・AI活用による生産性向上 |
出典:特定地域(中山間・人口減少地域)の考え方について(令和8年6月29日社会保障審議会)|厚生労働省
どのような地域が「特定地域」の対象となるのか
「特定地域」の法律上の定義
改正介護保険法では、特定地域を次のように定義しています。
「人口の減少その他の厚生労働省令で定める基準に該当する地域として都道府県が定めるもの」
つまり、国が一定の基準を示し、その基準に基づいて都道府県が対象地域を指定する仕組みです。
制度の具体的な指定方法については、現在、厚生労働省において検討が進められています。基本となるのは、現在の「特別地域加算」や「離島等相当サービス」の対象地域です。これらは、交通事情や人口密度などの理由から介護サービスの提供が困難な地域を対象としており、特定地域制度においても対象地域のベースになると考えられています。
「特定地域」の指定基準
では、どのような地域が「特定地域」に指定されるのでしょうか。
現在、厚生労働省では75歳以上人口の規模や人口密度を重視する方向で検討が進められています。75歳以上は要介護認定率が約3割に達し、介護サービス利用の中心となる世代であることから、この年代の人口動向が将来の介護需要を最も反映すると考えられているためです。
現在示されている素案では、次のような基準が考えられています。
- 75歳以上人口密度が5人/㎢未満
- または75歳以上人口が1,000人未満で、今後減少する地域
これは、単に人口が少ない地域ではなく、「介護サービスの維持が現実的に難しくなりつつある地域」を客観的なデータで抽出しようという考え方です。
市町村内の一部地域も指定対象となる
特定地域制度では、市町村全体だけではなく、旧市町村単位や行政区、日常生活圏域など、市町村内の一部地域を指定することも想定されています。
例えば、同一市町村内であっても、特定のエリアで高齢者人口の減少が進んでいる場合、市町村内の一部(旧市町村単位や日常生活圏域など)を特定することも可能ということです。また、特定のサービス事業所が存在しない、または事業所が廃止を検討しているなど、現行制度での維持が困難な地域も対象となるとのことです。
出典:特定地域(中山間・人口減少地域)の考え方について(令和8年6月29日社会保障審議会)|厚生労働省
「特定地域」制度で介護サービスはどう変わる?
特定地域制度の創設は、単に対象地域を指定するだけではありません。
中山間・人口減少地域でも介護サービスを維持できるよう、サービス提供の仕組みそのものを柔軟に見直すことが検討されています。
ここでは、制度改正のポイントとなる3つの変更について解説します。
1.人員配置基準などを柔軟に運用できる「新たな類型」

出典:特定地域(中山間・人口減少地域)の考え方について 特例介護サービスごとの活用・運用のイメージ|厚生労働省
介護保険制度ではこれまでも、離島や中山間地域など、通常の基準では介護サービスの提供が難しい地域を対象に、「基準該当サービス」や「離島等相当サービス」といった特例介護サービス(特例居宅介護サービス等)が設けられてきました。これらは、通常より柔軟な基準を適用することで、地域の介護サービスを維持するための仕組みです。
今回の改正では、この既存の特例介護サービスの枠組みを拡充し、特定地域を対象とした新たな類型(特定地域サービス)が創設されます。
これまで特例介護サービスの対象は、訪問介護や通所介護などの居宅サービスが中心でしたが、新たな類型では、施設サービス(介護老人福祉施設など)や地域密着型サービス、特定施設入居者生活介護も対象となる予定です。これにより、居宅サービスだけでなく、地域の介護提供体制全体を維持するための仕組みへと拡充されます。
また、新たな類型では、人材確保やICTの活用など、生産性向上に取り組んでもなおサービスの維持が難しい場合に限り、一定の条件のもとで人員配置基準などを柔軟に運用できるようになります。
具体的には、次のような見直しが検討されています。
- 管理者や専門職の常勤・専従要件の緩和
- 夜勤要件の見直し
- サービス間・事業所間の連携の推進
ただし、こうした特例は一律に認められるものではなく、ICTの導入や生産性向上、法人間連携などに取り組んでもなおサービス維持が困難な場合に限定して適用されることが想定されています。そのため、この制度は人員配置基準を緩和すること自体が目的ではなく、地域に必要な介護サービスを継続するための例外的な仕組みと位置付けられています。
2.包括評価の導入
現在の介護保険制度では、訪問介護などの居宅サービスは、サービスを提供した回数や時間に応じて介護報酬が支払われる「出来高払い」が基本となっています。
しかし、中山間・人口減少地域では、
- 利用者の急なキャンセル
- 利用者宅間の長距離移動
- 季節による利用者数の変動
- 利用者数そのものの減少
などの影響を受けやすく、サービス提供に必要なコストに対して十分な報酬を確保しにくいという課題があります。
こうした課題に対応するため、特定地域では、従来の出来高払いに加え、月単位の包括評価(定額払い)を選択できる仕組みの導入が検討されています。
包括評価では、サービス提供回数だけでなく、地域特有の事情も踏まえて報酬を評価することが想定されており、
- 事業所の収入が安定しやすくなる
- 利用者宅間の長距離移動などの負担を考慮しやすい
- 利用回数の少ない利用者も受け入れやすくなる
- 常勤職員を配置しやすくなり、人材確保につながる
といったメリットが期待されています。
一方で、利用者ごとのサービス利用量に差が生じることから、公平性の確保や、必要以上・必要以下のサービス提供につながらない仕組みづくりも重要な課題です。そのため、包括評価の対象サービスや算定方法などの詳細については、今後、社会保障審議会介護給付費分科会で検討が進められる予定です。
3.市町村が主体となる新たなサービス提供の仕組み
さらに踏み込んだ仕組みとして、特例介護サービスを活用してもなお介護サービスの維持が困難な特定地域では、新たな仕組みとして「特定地域居宅サービス等事業」の創設が予定されています。
これは“市町村”が主体となってサービス提供体制を確保するといった仕組みです。地域支援事業の枠組みを活用し、市町村が事業者へサービス提供を依頼・委託することで、地域に必要な介護サービスの継続を図ります。
従来の介護保険制度では、利用者が事業者と契約を結び、介護保険給付を受けながらサービスを利用することが基本です。一方、この事業では利用者がサービスを選択する仕組みは維持しつつも、圏域を超えた訪問に伴う移動コストなど、通常の介護報酬では十分に評価しにくい負担を市町村が考慮できる点が特徴です。そのため、市場原理だけではサービスの維持が難しい地域でも、必要な介護サービスを確保しやすくなることが期待されています。
また、人口減少によって介護施設の空床が増えた場合には、既存施設を有効活用できるよう、国庫補助金返還ルールの特例も拡充されます。
これまでは、補助金を受けて整備した介護施設を別用途へ転用する場合、一定期間内は補助金の返還が必要となるケースがありました。しかし、今後は自治体が事業継続が困難と判断した場合、整備後10年未満であっても、障害福祉サービス事業所やサービス付き高齢者向け住宅などへの転用を柔軟に認める方向で検討されています。
このように、特定地域制度では新たなサービス提供の仕組みだけでなく、既存施設の有効活用も含めて地域の介護資源を維持・活用する仕組みが整備されようとしています。
「特定地域」制度が介護事業者に示すもの
地域全体で介護サービスを維持する発想への転換
今回の制度改正から見えてくるのは、介護サービスを「個々の事業所」で維持するのではなく、「地域全体」で支えていくという考え方への転換です。人口減少が進む地域では、事業者同士が競争するだけでは、地域の介護提供体制そのものが維持できなくなる可能性があります。
そのため、厚生労働省は法人間・事業所間の連携や、地域の介護提供体制を支える事業者への支援についても検討を進めています。今後は、自法人だけでなく、地域全体の介護基盤をどのように維持するかという視点が、これまで以上に重要になるでしょう。
地域の変化を踏まえた経営戦略が重要に
特定地域制度は中山間・人口減少地域を対象としています。しかし、人口減少や介護人材不足は全国共通の課題です。そのため今回の制度改正は、対象地域以外の介護事業者にとっても、将来の経営を考えるきっかけになると考えられます。
例えば、
- 自社が事業を展開する地域の介護需要は今後どう変化するのか
- 人材不足にどう対応していくのか
- 他法人との連携やICT活用をどのように進めるのか
など、中長期的な視点で事業運営を見直すことが重要になるでしょう。必要に応じて、他法人との連携や事業承継、M&Aなども含め、多様な選択肢を視野に入れながら地域で持続可能な介護提供体制を構築していくことが求められるでしょう。
「特定地域」制度の課題と今後の論点
制度の創設によって人口減少地域における介護サービスの維持が期待される一方、制度を実効性のあるものとするためには、いくつかの課題も指摘されています。
今後は、介護現場の実態を踏まえながら制度を運用・検証していくことが重要になるでしょう。
特定地域制度の対象拡大における課題
特定地域制度では、人員配置基準の柔軟化など、従来の介護保険制度にはない特例が設けられます。
一方で、こうした特例が本来の趣旨を超えて広く適用されることへの懸念も示されています。介護保険制度は「全国どこでも必要な介護サービスを受けられること」を基本理念としており、特定地域での基準緩和は、あくまで介護サービスの維持が極めて困難な地域に限定して運用されるべきとされています。そのため、対象地域の指定基準を明確にするとともに、制度の運用状況を継続的に検証していくことが重要になるでしょう。
テクノロジーの活用と介護サービスの質をどう両立するか
特定地域では、ICTや介護テクノロジーの活用を前提として、人員配置基準などの柔軟化が検討されています。しかし、見守りシステムやAIは業務の効率化に寄与する一方で、利用者の急変時の対応や身体介護など、人でなければ担えない役割も少なくありません。特に夜勤体制の見直しなどについては、利用者の安全を確保しながら職員の負担軽減をどのように実現するのかが、今後の制度設計における重要な論点となります。
包括評価の導入と適切な制度運用
特定地域では、出来高払いに加えて月単位の包括評価(定額払い)の導入が検討されています。包括評価は、事業者の経営安定化や地域特有の事情を反映しやすいというメリットが期待される一方で、制度設計には慎重な検討が求められます。
例えば、
- 利用者ごとのサービス利用量の違いをどのように評価するのか
- 必要以上・必要以下のサービス提供を防ぐ仕組みをどう整備するのか
- 保険財政とのバランスをどのように確保するのか
などが今後の主な論点として挙げられています。
制度開始後も運用状況や介護サービスの質、利用者への影響などを継続的に検証しながら、地域の実情に応じて制度を改善していくことが求められるでしょう。
さいごに
特定地域制度は、人口減少や介護人材不足が進む地域においても、必要な介護サービスを維持するために創設された新たな制度です。人員配置基準の柔軟化や包括評価の導入、市町村が主体となる新たなサービス提供の仕組みなどが検討されており、地域の実情に応じた介護提供体制への転換が進められています。
介護事業者にとっては、制度の内容を理解するだけでなく、自社が事業を展開する地域の将来像を把握し、地域との連携や事業戦略を見直すことが、持続可能な経営につながる重要なポイントとなるでしょう。
人口減少や介護人材不足が進む中、将来の経営戦略や事業承継、M&Aをご検討の際は、介護業界に特化したCBヘルスケアまでお気軽にご相談ください。地域特性や市場環境も踏まえ、一社一社に合わせたご提案をいたします。
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・令和8年度介護報酬改定の概要|処遇改善加算拡充で最大月額1.9万円賃上げ、算定要件を解説
・2027年創設予定「登録施設介護(予防)支援」とは?住宅型有料老人ホームの今後と影響も解説
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