
はじめに
物価高、人材不足、後継者不在、ICT活用、現場の生産性向上など、介護事業者を取り巻く経営環境は大きく変化しています。
では、介護事業者は現在、どのような経営課題を抱えているのでしょうか。
CBヘルスケアでは、介護事業者の経営・人材面の実態を把握するため、全国の介護事業者666法人を対象に独自アンケートを実施しました。採用・離職、人事制度、処遇改善、ICT活用、今後の事業方針、後継者育成など、介護経営に関わる幅広いテーマについて調査しています。
本コラムでは、その調査結果から主要なデータを抜粋し、介護事業者が現在直面している課題と、そこから見えてくる今後の介護経営について解説します。
「今のやり方のままで、5年後も事業を継続できるだろうか……」
そんな不安を抱える経営者の方は、ぜひ自社の状況と照らし合わせながらご覧ください。
目次
調査概要
本調査はCBヘルスケアが実施した独自アンケートです。介護事業者の経営・人材課題を把握することを目的として、全国666法人から回答を得ました。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 調査主体 | 株式会社CBヘルスケア |
| 調査対象 | 住宅型有料老人ホーム、グループホーム、特別養護老人ホーム等の入居系介護サービスを運営する法人 |
| 回答数 | 666法人 |
| 主な対象サービス | 入居系サービス |
| 調査期間 | 2026 年3月13日~ 4月3日 |
| 調査方法 | 対象法人へ郵送でアンケートを送付し、FAXまたはWEBフォームで回答 |
| 調査内容 | 人材採用、定着、処遇、人事制度、ICT、事業方針、後継者育成など |
介護業界におけるCBヘルスケアの取り組み
CBヘルスケアは、介護・福祉業界に関わる事業者の経営支援やM&A、事業承継などを通じて、介護事業者を取り巻く経営課題に寄り添っています。
介護事業者を取り巻く環境が変化するなか、経営者が自法人の現在地を把握し、中長期的な経営判断を行うためには、業界全体の動向を客観的に捉えることが重要です。そこでCBヘルスケアでは、介護事業者が実際にどのような課題を感じ、どのような取り組みを進めているのかを把握するため、全国の介護事業者を対象とした独自調査を実施しました。
本調査では、採用・離職、人事制度、処遇改善、ICT活用、今後の事業方針、後継者育成など、介護経営に関わるテーマを幅広く取り上げています。
介護事業者が抱える人材課題|最も多かったのは「職員の高齢化」
介護業界では、人材不足が長年の経営課題となっています。しかし、今回の調査からは、単に「人が足りない」というだけではない、組織づくりに関わる課題も見えてきました。
「職員の高齢化」は65.4%
「人材面で当てはまる課題」と聞いたところ(※複数回答可)現場が抱える人材面の課題として最も多く挙げられたのは、「職員の高齢化が進んでいる」が65.4%でした。

採用は「経験者・有資格者に集中」
一方、現在実施している採用活動について聞いたところ(※複数回答可)、「介護経験者の中途採用」が87.3%、「有資格者の中途採用」が82.4%と、即戦力となる人材を対象とした採用が中心となっています。
経験者や有資格者の採用は、目の前の人員不足を補い、現場を安定させるうえで有効な手段です。しかし、即戦力人材の採用だけに依存すると、将来的な人材の層を厚くすることが難しくなる可能性もあります。
特に職員の高齢化が課題となっている法人では、今すぐ現場を支える人材の確保と並行して、数年後の組織を支える若手・未経験者を採用し、育成していく視点が欠かせません。
採用難への対応は、「誰を採るか」だけではなく、「今必要な人材」と「将来育てたい人材」をどう組み合わせるかまで考えることが重要です。短期的な人員確保と中長期的な人材育成を両輪で進められるかが、これからの組織づくりを左右するのではないでしょうか。
外国人介護人材の受け入れ状況
外国人介護人材については、「すでに採用している法人」39.2%、「現在特に考えていない」29.1%、「関心はあるが、課題や不安を感じている」19%、「条件次第で今後の採用を検討している」11.7%という結果になりました。
外国人介護人材を「採用する/しない」の二択で捉えるのではなく、採用後にどのように受け入れ、定着・戦力化していくのかという「受け入れ体制」の整備も、今後のテーマになるのではないでしょうか。
言語や文化の違いへの配慮に加え、業務を理解してもらうための教育、相談体制の整備、キャリア形成など、長く働き、現場で力を発揮してもらうための仕組みづくりも必要になります。
今後はどのように育成し、定着してもらい、将来的に組織を支える人材へと育てていくのかという視点がより重要になりそうです。
外国人介護人材を「不足する人員を補うための人材」と考えるのか、それとも「将来の組織を担う人材」として育成していくのか。その位置づけによって、採用後の教育や人事制度、職場環境の整備など、法人に求められる取り組みも変わってきます。
介護の採用難、課題は「採用」だけではない|離職と採用コスト
人材不足への対応として採用活動の強化は必要ですが、一方で、採用した人材が定着しなければ、採用活動を繰り返すことになります。
採用人数と離職人数
調査の結果、2025年度の採用実績は、「1~3名を採用」が34.6%、「10名以上を採用」が26.0%となりました。
一方、2025年度の離職人数についても、「1~3名が離職」が39.5%、「4~6名が離職」が21.9%となっています。
今回の調査結果だけで採用と離職の因果関係を示すことはできませんが、採用人数だけでは人材確保の状況を十分に捉えられないことがうかがえます。
人材を確保しても、短期間で離職が続けば、慢性的な人手不足は解消されません。また、採用活動には募集や面接、教育などのコストもかかるため、採用と離職を繰り返す状態は、現場の負担だけでなく経営面にも影響を及ぼします。
だからこそ、これからの人材戦略では、「どう採用するか」だけでなく、「どうすれば長く働き続けてもらえるか」までを一体で考えることが重要です。採用と定着を別々の施策として捉えるのではなく、職場環境や人事制度、キャリア形成なども含めて、人材の確保から定着までを一つの流れとして考えていく必要があります。
「採用コストを把握していない法人」は16.0%
採用にかかるコストについても、気になる結果が出ました。
売上高に対する採用関連費用の割合について、「把握していない」と回答した法人が16%でした。
人材紹介手数料を「高い」と感じる法人は9割以上
また、人材紹介会社の手数料については、9割以上の事業者が「高い」と感じています。
採用費が高いという感覚はあっても、その費用が実際にどの程度経営を圧迫しているのか、また、採用した人材がどの程度の期間で戦力化し、投じた費用を回収できているのかまで、実際に把握されている事業者様は、どれくらいいるでしょうか。
採用にかかる費用は、求人広告や人材紹介会社への手数料だけではありません。面接や採用後の教育にかかる時間・コスト、独り立ちするまでの生産性、さらに早期離職が発生した場合の再採用コストなども含めて考える必要があります。
そのため、今後は「いくらかけて採用したか」だけでなく、「採用した人材がどれだけ定着し、どの程度の期間で戦力として貢献しているか」までを含めて、採用投資全体の費用対効果を捉える視点が重要になります。
採用を単なるコストではなく、事業を支える人材への投資として捉え、その効果を継続的に検証していくことが求められそうです。
介護職員の処遇改善を阻む「原資」と人事制度
職員の確保・定着を考えるうえで、処遇改善や人事制度も重要なテーマです。しかし、制度を整えるだけでは十分とは言えない実態が見えてきました。
約8割が「人事制度を見直し・検討」
人事制度について、「すでに見直している」33.4%、「必要性は感じておりいずれ見直したい」27.1%、「必要性を強く感じており早急に見直したい」16.5%と、人事制度をすでに見直している、または見直しを検討している法人は約8割にのぼりました。
最大の課題は「職員の行動・成果との連動」
一方で、人事制度に対する課題として最も多かったのは、「職員に求める具体的な行動や成果と結びついていない」が43.4%でした。制度を「つくる」ことと、それを「組織の行動変容につなげる」ことは別の問題で、制度が必ずしも職員の行動や成長につながるわけではないことを示しています。
評価項目や基準が設定されていても、「何をすれば評価されるのか」「評価を上げるために、日々どのような行動をすればよいのか」が職員に伝わっていなければ、制度は形だけのものになってしまいます。また、評価結果が処遇やキャリア形成、育成につながらなければ、職員にとっても制度の意義を感じにくくなります。
人事制度で重要なのは、制度を「つくる」ことだけではありません。評価基準が現場の行動に落とし込まれ、評価・フィードバック・育成・処遇が一つの流れとして機能しているかが、制度の実効性を左右します。
約半数が「処遇を引き上げたいが原資の捻出が困難」
今後の職員の処遇については、約37%が「優先的に引き上げたい」と回答する一方、最も多かったのは「引き上げたいが、配分原資の捻出が困難」49.6%でした。

職員の待遇を改善したいという意向があっても、原資となる利益を安定的に確保できなければ、継続的な賃上げは難しいのが実情です。また、一時的な手当や加算への対応だけではなく、将来にわたって処遇改善を続けていくためには、事業そのものの収益構造を見直す必要もあります。
だからこそ、処遇改善を単なる「人件費の増加」として捉えるのではなく、職員への還元を可能にする収益力をどう確保するかという、経営課題として考えることが重要です。収益性の向上や業務効率化、コスト構造の見直しなどを通じて原資を生み出し、その一部を職員の処遇に還元するという、持続可能な仕組みづくりが求められています。
介護現場のICT活用はどこまで進んでいる?
介護記録へのICT活用は進む一方、領域によって差も
「介護記録や情報共有へのICT活用」をしていると回答した法人は59.4%と比較的高い割合となりました。
一方で、「利用者の見守り・安全管理に関するICT」が35.2%、「勤怠・シフト管理」は27.8%にとどまっています。
今回の調査では、ICT活用は一様に進んでいるわけではなく、業務領域によって導入状況に差があることが分かりました。ICT活用が業務全体の生産性向上にまで広がっているかは、今後の論点になりそうです。
「導入した」から「業務が変わった」へ
ICTは導入すること自体が目的ではありません。記録業務の効率化だけでなく、見守りやシフト管理、情報共有などを含めて業務プロセスそのものを見直せるかどうか。
今後は、ICTの導入実績だけではなく、業務時間の削減や職員の負担軽減につながったか、その結果として利用者と向き合う時間が増えたか、ケアの質が向上したかまで、その効果を捉えていくことが求められるのではないでしょうか。
介護事業者の5年後の経営|「現状維持」が最多
人材・財務・生産性の課題が変化するなか、介護事業者は5年後をどのように見据えているのでしょうか。
現状維持の一方で環境は変化し続ける
今後5年間の事業方針として最も多かったのは、「現状維持をしながら継続したい」が37.2%でした。

急激な事業拡大を目指さず、現在の事業を安定的に続けたいという考えは、決して不自然ではありません。特に介護事業では、利用者や職員、地域との関係を大切にしながら、無理のない事業運営を続けることも重要な選択肢です。
しかし、人材不足や物価上昇、報酬改定など、外部環境が変化し続けるなかでは、「何もしないこと」と「安定して現状を維持すること」は同じではありません。現在と同じ事業を続けるためにも、人材確保や業務効率化、収益構造の見直しなど、変化に応じた対応が必要になります。
5年後も今と同じサービスを提供し続けるために、「現状維持」を目的にするのではなく、何を維持するために、今何を変えるのか。 そうした視点で中長期の経営を考えることが、これからますます重要になりそうです。
介護事業の事業承継・後継者は育っているか
将来的に会社の中心となる人材について、「社内にはいるが数年程度の育成が必要」と回答した法人は60.5%でした。
候補者が社内にいることは大きな強みです。一方で、「候補者がいること」と「経営を任せられる状態にあること」は同じではありません。経営判断や人材マネジメント、財務、地域との関係づくりなど、現経営者が担っている役割をどのように引き継いでいくのかには、一定の時間が必要です。
特に、育成に数年を要するのであれば、後継者が必要になってから動き始めるのではなく、まだ経営を続けられる段階から、次の担い手を育てていくことが重要になります。「誰が次の経営を担うのか」を見据えながら、人材の育成と事業基盤の整備を同時に進められるかが、これからの介護経営における重要なテーマになりそうです。
調査結果から考える、これからの介護経営
今回の666法人を対象とした調査では、職員の高齢化、採用・離職、処遇改善、人事制度、ICT活用、後継者育成など、介護事業者が抱えるさまざまな課題が明らかになりました。
これらは、それぞれ独立した課題ではありません。
人材を確保・定着させるためには処遇や人事制度の整備が必要になり、処遇改善を継続するためには収益力の確保が求められます。また、人材不足への対応としてICTを活用する場合も、単にシステムを導入するだけではなく、業務そのものを見直す必要があります。
さらに、5年後も現在の事業を継続するためには、後継者の育成や経営基盤の整備も欠かせません。
今回の調査結果から見えてくるのは、「人材をどう確保するか」だけではなく、「限られた経営資源をどのように配分し、将来にわたって事業を維持できる経営基盤をどうつくるか」という課題です。
介護事業者にとって、「現状維持」は何もしないことではありません。5年後も今の事業を続けるために、現在の経営や組織の何を変えるべきなのか。こうした中長期的な視点で、自法人の現在地を見直すことが重要になっています。
詳細な調査結果をレポートで公開
本コラムでは、666法人の調査結果から主要なデータを一部紹介しました。
レポート本編では、これらの結果に加えて、法人規模や採用状況などによる傾向の違い、各テーマの詳細な調査結果を掲載しています。
自法人が現在どの位置にいるのか、そして今後どこに課題があるのかが、より具体的に見えてきます。業界全体の「現在地」を知り、自法人の経営を考えるための材料として、ぜひご覧ください。
調査結果を自社の経営にどう活かす?
業界全体の傾向を把握した後は、自社がどのような状況にあるのかを客観的に把握することも重要です。
「自社の経営環境を客観的に把握したい」という方に向けて、無料経営環境分析(簡易市場調査・賃金分析・企業価値診断)もご用意しています。
- 地域の市場環境はどうなっているのか
- 自社の賃金水準は適正なのか
- 現在の企業価値はどの程度なのか
など、自社の現状を客観的に把握したい方におすすめです。無料診断となっておりますので、ぜひご活用いただければ幸いです。




