
はじめに
介護報酬改定や処遇改善への対応、長引く物価高騰など、介護経営を取り巻く環境は激しい変化の波にさらされています。
さらに、採用コストの上昇や人件費の高騰、激化する人材獲得競争といった課題が、多くの事業者の経営を圧迫しています。このような「現状維持」の経営がますます困難となる状況において、これからの介護事業者が持続的な経営を実現するためには何が必要なのでしょうか。
今回のコラムでは、2026年8月7日(金)に開催された高齢者住宅新聞社主催「介護経営カンファレンス」でのセミナー内容をダイジェストで紹介します。
本セミナーでは、単に変化が起きてから受動的に対応するのではなく、「変化が起きる前に、あらかじめ自法人の将来を考え、経営の選択肢を持っておく」という経営のあり方について、具体的な視点を探ります。
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セミナー概要
- 登壇者:株式会社CBヘルスケア 東日本事業本部 本部長 齊藤 章平
- 各講演テーマと全体の流れ
1.介護経営を取り巻く環境変化
1-2.データから見る経営課題
2.自社で「すべて対応する」経営から、必要なものを「組み合わせる」経営へ
3.事例から考える、介護経営の新たな選択肢
1.介護経営を取り巻く環境変化
はじめに、介護経営を取り巻く環境変化について解説されました。
これまでの介護経営では、制度への対応力や現場力、地域からの信頼などが重視されてきましたが、人材確保や物価高など複数の課題が重なる現在、こうした対応力に加えて、組織として変化に向き合うための基盤が重要になっています。
講演では、そのために必要となる経営資源として、「人材を確保する力」「管理者を育成する力」「本部機能を持つ力」「地域・法人間で連携する力」などが挙げられました。さらに、こうした取り組みを継続するためには、変化に対して必要な投資を行える経営体力も欠かせません。
つまり、これからの介護経営では、単に「今の事業を維持する」だけではなく、将来の変化を見据えて、必要な経営資源をどのように確保し、組織の力を高めていくかを考えることが重要になっています。
1-2.データから見る経営課題
続いて、CBヘルスケアが2026年3月に実施した「介護事業者への経営調査」の結果から、経営者が抱える問題について示しました。
調査では、介護業界における人材不足が共通の課題である一方、採用の対象や取り組みには売上規模別による違いが見られました。

上記のグラフから読み取れるように、売上5億円以上の法人では、半数以上が新卒採用に取り組んでおり、本部部門の採用も一定数見られます。目の前の人員確保だけでなく、将来の組織づくりを見据えた採用にも取り組める体制があることが分かります。
一方、売上1億円未満の法人では、新卒採用は約16%にとどまり、多くが経験者採用を中心としています。日々の事業運営を維持するため、まずは即戦力の確保を優先せざるを得ないという実態がうかがえます。
次に、どのような人材課題を抱えているのかを売上規模別に見ていきました。

売上規模が5億円以上の法人では、「管理職・リーダー不足」が多く挙げられています。これは、事業をさらに成長させるために、管理者やマネジメント人材を育成・確保したいという、成長に伴う課題と言えます。
一方、売上規模1億円未満の法人では、「職員の高齢化」が最も大きな課題となっています。現在はベテラン職員の方々が現場を支えていますが、その先を考えたときに、「次の担い手をどう確保するか」という課題を抱えている事業者は多いと思われます。
このように、人材不足と一言で言っても、現場を支える人材確保が最優先になる法人もあれば、事業規模の拡大により採用だけではなく、人材育成や管理部門、経営管理といった新たな機能が必要になる法人もあります。
そして、こうした課題には法人規模によらず一つの共通点があります。
それは、経営者様や自法人だけ対応することが難しい課題が以前より増えている、ということです。
すでに人材紹介会社や採用支援会社を活用したり、DXによって業務効率化を図ったりするなど、外部の力を取り入れている法人も少なくありません。しかし、経営課題が複雑化する中では、個別のサービスを活用するだけでは対応しきれない課題も出てきます。
こうした背景から、自法人だけで課題を解決することを前提とせず、外部の力や他法人との連携なども含めて、「必要な経営資源をどのように確保するか」を考えることが重要になっているとお伝えしました。
2.自社で「すべて対応する」経営から、必要なものを「組み合わせる」経営へ
経営資源を確保する4つのアプローチ

講演の中心テーマとなったのが、経営資源を「自社だけですべて対応する」ことに限定しない考え方です。
従来の介護経営では、必要な人材や機能が不足した場合、自法人で採用し、育成し、仕組みをつくることが基本的な対応でした。もちろん、自法人の力を高めることは今後も重要です。
一方で、人材採用やDX化など、外部の力を活用することが一般的になる中、近年は他法人との連携や協働化・大規模化も、介護経営における選択肢として位置づけられるようになっています。厚生労働省も介護経営の改善に向けて「協働化・大規模化」を推進しており、介護経営を取り巻く環境そのものが変わりつつあります。
こうした環境変化を踏まえ、講演では、必要な経営資源を確保する方法として、主に「4つのアプローチ」が提示されました。
- 自社で強化する(採用・育成・DX・業務改善など)
- 外部サービスを活用する(人材紹介・人事研修・採用支援・コンサル・各種専門家・AI活用・BPOなど)
- 他法人と連携する(業務提携・共同運営・地域連携など)
- グループ化・M&Aを活用する(経営基盤や機能を一体化する)
自法人の課題や状況に応じて、自社で強化するもの、外部の力を活用するもの、他法人と連携するものなど、それぞれの方法を組み合わせながら、必要な経営資源を確保していくことが重要だとお伝えしました。
「選択肢を選べる状態」で動く
こうした経営資源の確保方法の一つとして、近年はM&A(グループ化)を活用するケースも増えています。講演では、M&A検討する際の「タイミング」についても取り上げられました。
M&Aを検討するうえで重要なのは、「M&Aをするかどうかを早く決めること」ではありません。経営に余力がある段階からM&Aについて知り、自法人にとってどのような可能性があるのかを考えておくことが重要です。
例えば、資金繰りの悪化や稼働率の低下、深刻な採用難など、経営上の問題が顕在化してから対応を始めた場合、すでに選択肢が限られている可能性があります。その場合、限られた選択肢の中から判断せざるを得ず、譲渡先や条件などについても、十分に比較検討できないケースがあります。
一方で、早い段階からM&Aを選択肢として知っていたとしても、必ずしもM&Aを実行する必要はありません。M&Aを含め、将来の経営について考えることで、自法人の状況に応じた判断をするための時間を確保することができます。
こうしたことから、特定の選択肢をあらかじめ決めておくのではなく、経営に余力がある段階から将来の選択肢を知り、必要なときに自法人に適した方法を選べる状態をつくっておくことが重要である、という考え方をお伝えしました。
3.事例紹介
ここまで紹介した「経営に余力がある段階から選択肢を持つ」という考え方について、最後に実際の事例を紹介しました。
「今後も事業を続けていくために何が必要か」「職員や利用者を守るためにはどうすればよいか」を考え、将来の選択肢を検討した事例です。
【事例①】業績好調な中で決断した大手介護法人へのグループイン
■年間売上約1億2,700万円で、居宅介護支援や訪問看護を運営する50代の経営者様
業績は好調だったものの、事業拡大に伴う経営・法務・労務への不安や、社内・親族に後継者がいないこと、自身の年齢や体力面、そして万が一の際に「職員の雇用を守れるか」という責任感を抱え、経営が苦しくなる前の決断を模索されていました。
最終的には、経営基盤の安定性、職員の雇用維持、そして自社とビジョンや価値観が一致することを重視して譲渡先を選定し、持分譲渡によるグループインを決断されました。
譲渡後は、法務・労務体制が強化され、経営不安の軽減や職員の安心感、さらには地域からの信頼性向上という好結果につながりました。「困ったから譲渡した」のではなく、「将来の選択肢があるうちに早期に決断した」ことこそが、結果として職員と事業を最良の形で守ることにつながることを示す一例といえます。
【事例②】自身が元気なうちに実現した第三者への事業承継
■年間売上約1億4,200万円で、サービス付き高齢者向け住宅や中規模デイサービス、訪問介護、居宅支援事業所など複数事業を運営する70代の経営者様。
年齢・体力的な不安や、複数事業を1人で抱え続ける負担と責任感、後継者不在の将来不安を背景に、「自分が元気なうちに事業を引き継ぎたい」と考えられていました。
譲渡条件そのものよりも、「事業がそのまま継続されること」「従業員が安心して働き続けられること」「利用者様への影響を最小限に抑えること」を何より優先し、安心して事業を任せられる法人に事業譲渡を決断されました。
引き継ぎ後は大きな混乱もなくサービスが安定継続され、経営者様は新規事業へシフトすることで、経営に伴う精神的・時間的な負担が軽減されました。
この事例からも、経営者自身が限界を迎える前に、「どのような形で事業を次の担い手につなぐのか」を考えておくことの重要性が分かります。
さいごに
本セミナーを通じて講師がお伝えしたかったことは、「現状維持の経営が難しくなる中で、変化が起きてから動くのではなく、変化が起きる前に選択肢を持っておくこと」の重要性です。
今回のセミナーでは、経営の選択肢の一つとしてM&Aを具体例に取り上げながら、将来を見据えた経営判断について解説しました。
実際にM&Aについてご相談をいただいた際にも、検討を進めた結果、現在の体制を維持するという判断に至るケースもあれば、将来に向けて少しずつ準備を進めるケースもあります。
大切なのは、特定の選択肢を急いで決めることではなく、経営に余力があるうちから自法人の現状を整理し、将来について考えておくことです。一見すると当たり前のように思えることですが、日々の経営に追われる中で、まだ問題が顕在化していない段階から将来の選択肢を考えることは、決して簡単ではありません。
株式会社CBヘルスケアでは、介護事業者の皆さまの経営課題や事業承継に関するご相談を承っています。
「今の経営状況で、将来に向けて何を考えておくべきか」「M&Aを選択肢として考えるべきか」「事業承継に向けて何から整理すればよいか」など、具体的な方針が決まっていない段階でも構いません。
将来の経営について考えるきっかけとして、ぜひ一度お問い合わせください。
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