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介護経営の資金調達に新たな選択肢。2026年5月施行「企業価値担保権」とは?

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はじめに

介護業界では、人材確保や処遇改善、DX投資、物価高への対応など、多くの経営課題への対応が求められています。

こうした課題に対応するためには、設備投資や人材投資、新たなサービス展開などのための資金が必要になります。しかし中には十分な不動産を保有しておらず、資金調達に苦労した経験をお持ちの方も少なくないのではないでしょうか。

 

これまでの融資では、土地や建物といった担保資産や経営者保証が重視される傾向にありました。そのため事業の将来性や地域で築いてきた信頼、人材やノウハウといった「目に見えない価値」が評価されにくい側面がありました。

企業価値担保権は、不動産などの有形資産だけではなく、企業が持つ事業全体の価値に着目する新たな融資の仕組みです。今後、中小企業や介護事業者にとっても、資金調達や事業承継における新たな選択肢となる可能性があります。

 

本コラムでは、企業価値担保権の概要や介護事業者への影響、活用の可能性について解説します。

●このコラムのポイント

  • 2026年5月に施行された「企業価値担保権」により、不動産担保や経営者保証に依存しない新たな資金調達の選択肢が生まれました
  • 介護事業においては、不動産だけではなく、人材・ノウハウ・地域での信頼・将来の事業計画といった「事業価値」がこれまで以上に重要になります。
  • 今後の資金調達や事業承継に備えるためにも、自社の強みや成長可能性を客観的に把握し、第三者に説明できる状態にしておくことが重要です。

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新制度「企業価値担保権」とは何か

事業性融資の推進等に関する法律の成立

2024年6月、「事業性融資の推進等に関する法律(事業性融資推進法)」が成立し、2026年5月25日に施行されました。この法律は、不動産担保や経営者保証に過度に依存してきた従来の融資慣行を見直し、企業の事業性や将来性に着目した資金供給を促進することを目的としています。

これまで金融機関による融資では、土地や建物などの担保資産や経営者保証が重視される傾向でしたが、近年スタートアップ企業やサービス業をはじめ、有形資産を多く保有していなくても高い成長性や競争力を持つ企業が増えています。また、事業拡大や事業再生、事業承継などの局面では過去の財務情報だけではなく、事業計画や将来性といった定性的な情報も重要になります。

こうした企業の成長や円滑な事業承継を後押しするため、企業の将来性や事業全体の価値に着目した融資を促進する仕組みとして創設されたのが「企業価値担保権」です。

出典:事業性融資の推進等に関する法律 説明資料|金融庁

新制度「企業価値担保権」の仕組み

新制度である「企業価値担保権」は、従来の融資のあり方を根本から変える仕組みです。この制度の核となる仕組みを、4つのポイントで解説します。

1.担保の対象は「事業全体の価値(総財産)」

これまで、金融機関から融資を受ける際の担保は、土地や建物といった特定の「有形資産」に限定されるのが一般的でした。しかし、企業価値担保権では、無形資産(ノウハウ、顧客基盤、ブランド、組織力など)を含む「会社の総財産」すべてが担保の対象です。これには将来生み出されるキャッシュフローも含まれており、不動産を持たない企業であっても、事業そのものが生む価値を背景に資金を調達できるようになります。

2.「信託」という仕組みを活用した設定

企業価値担保権の設定は、借り手(事業者)と「企業価値担保権信託会社(新たに免許を受けた信託会社等)」との間で信託契約を結ぶことによって行われます。
 借り手: 株式会社や持分会社(合同会社)が対象 ※個人事業主は含まれない
 貸し手: 銀行等の金融機関だけでなく、ベンチャーファンドや再生ファンドなども利用可能
 対抗要件: 担保権が設定されたことは商業登記簿に登記され、外部からの確認が可能

3.経営の自由度と「経営者保証」の原則禁止

この制度の大きな特徴は、担保を設定した後も、経営者が「通常の事業活動」を自由に行える点にあります。不動産担保のように個別の財産を縛るものではないため、原則として財産の処分は自由です。ただし、事業譲渡など、事業内容を大きく変えるような特別な行為には担保権者の同意が必要となります。

また企業価値担保権を活用する場合、粉飾などの例外的なケースを除き、経営者個人の保証を求めることが制限されます。これにより、経営者は個人資産へのリスクを抑えつつ、攻めの経営や円滑な事業承継に取り組むことが可能になります。

4.万が一の際の「事業を解体しない」実行手続き

返済が困難になり、担保権が実行される際の手続きも、従来の競売とは大きく異なります。担保権の実行とは、融資を受けた企業(借り手)の債務の弁済が滞った際、貸し手である金融機関などが裁判所に申し立てを行い、この担保権を発動させることをいいます。
 裁判所の監督: 担保権者が裁判所に申し立てを行い、選任された管財人が経営を担います。
 事業の一体承継: 資産をバラバラに売り払うのではなく、原則として事業を一体としてスポンサーへ譲渡(事業譲渡)することを目指します。これにより、企業の持つ価値を損なわず、雇用の維持や取引の継続を図ることができます。また給与(労働債権)や仕入れ先への支払い(商取引債権)といった「事業継続に不可欠な費用」を、金融機関への返済よりも優先して支払う仕組みになっています。

出典:事業性融資の推進等に関する法律 説明資料|金融庁
   企業価値担保権 制度の概要|金融庁

このように、企業価値担保権は「過去の資産」ではなく「未来の事業価値」を担保にするものであり、事業者と金融機関がより深く対話し、伴走しながら成長を目指すための新しい金融インフラになることが期待されています。

介護事業者にとっての「事業価値」とは

介護事業では何が事業価値となるのか

先述の通り、企業価値担保権では、不動産や設備などの有形資産だけではなく、無形資産を含む事業全体が評価の対象となります。

では、介護事業における「事業価値」とは何でしょうか。

不動産や建物よりも、質の高いケアを提供する「ノウハウ」、地域での「信頼」、優秀な「人材」、そしてそれらが生み出す「将来のキャッシュフロー」こそが本質的な価値であるはずです。企業価値担保権では、こうした無形資産を含めた事業全体の将来性が重視されます。

そのため、過去の財務数値だけではなく、今後どのように事業を成長させていくのかという視点が重要になります。

中小規模の介護事業者にとって新たな選択肢となる可能性

企業価値担保権では不動産を保有していない事業者や、事業拡大・事業承継を検討している事業者にとって、新たな資金調達の選択肢となります。

介護事業者の活用シーンの例としては、

・新規施設の開設や事業エリア拡大のための投資を検討している場合

・施設が賃貸などで不動産担保が不足している場合

・DX投資や人材確保のための資金が必要な場合

・経営者保証がネックで事業承継を躊躇している場合

・事業承継に伴う資金調達を行いたい場合

・経営改善や事業再生に取り組んでいる場合

などが考えられます。

また、企業価値担保権では経営者保証への依存を減らすことも制度の目的の一つとされています。そのため、後継者への事業承継を検討している事業者にとっても注目される制度といえるでしょう。

制度が始まったばかりのため、実際にどのように活用が進むのかは今後の動向を見ていく必要があります。しかし、不動産などの有形資産だけではなく、事業そのものの価値や将来性に着目する考え方は、今後の介護事業者の資金調達にも影響を与えていく可能性があります。

金融機関はどのような点に着目するのか

企業価値担保権に基づく融資では、金融機関が事業内容を理解し、経営者との対話を通じて将来性を評価していくことが前提とされています。

そのため介護事業者においては、次のような要素を事業の強みとして可視化し、数値に基づいて説明できることが重要になると考えられます。

  • 高い稼働率を維持できているか
  • ICT活用による業務効率化や人材定着の取り組み
  • 安定した利用者紹介ルートを確保できているか
  • 離職率が低く人材が定着しているか
  • 加算取得が適切に行われているか
  • 地域での信頼を獲得できているか
  • 将来の事業計画が明確か

これらは融資の可否を機械的に判断する基準ではありませんが、介護事業の重要な要素になると考えられます。

経営者が今から準備すべきこと

企業価値担保権の導入によって、金融機関と事業者との対話はこれまで以上に重要になります。そのため、まずは自社の強みや特徴を整理し、「なぜ利用者に選ばれているのか」「今後どのように成長していくのか」を言語化しておくことが重要です。

また、事業計画を策定し将来の成長戦略や資金需要を明確にしておくことも欠かせません。金融機関は融資後も継続的なモニタリングや伴走支援を行うことが想定されており、経営の透明性や説明責任がこれまで以上に求められるようになります。

認定事業性融資推進支援機関などの専門家を活用しながら、自社の強みや成長可能性を客観的に整理しておくことも有効な準備の一つといえるでしょう。

自社の企業価値を知るために―無料価値診断のご案内

企業価値担保権では、企業価値そのものを「価格」として算定することが目的ではなく、事業の将来性や事業計画を踏まえて融資の可否や金額が判断されます。

一方、M&Aの世界では「売買価格」を決定するために厳密なバリュエーション(価値算定)が必須となります。目的は異なるものの、自社の強みや将来性を客観的に把握し、第三者へ説明できる状態にしておくことが重要である点は共通しています。また、融資の場面で評価される「人材の定着」「地域での信頼」「事業計画の実現性」といった要素は、M&Aにおいて買手企業が注目するポイントとも共通する部分があります。

当社では、介護・医療・福祉事業者様を対象に無料企業価値診断を実施しています。

無料価値診断では、第三者の視点から自社がどのような強みを持っているのか、どのような成長余地やポテンシャルがあるのかを確認することができます。

  • 「自社の価値はどの程度あるのか知りたい」
  • 「将来的な事業承継を見据えて準備を進めたい」
  • 「今後の成長戦略や資金調達について考えたい」

このようなお考えをお持ちの方は、ぜひお気軽にご相談ください。企業価値を把握することは、これからの経営判断において大きな武器になります。まずは現状を知ることから始めてみてはいかがでしょうか。

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コラム監修者

大倉 良介
大倉 良介
株式会社CBヘルスケア 東日本事業部 副部長

大学卒業後、商社で購買物流や事業開発、M&A業務に携わり、宿泊事業のコンサルを経て株式会社CBパートナーズ(現:株式会社CBヘルスケア)に入社。地域密着型デイサービス、訪問介護、居宅介護支援事業所、就労移行支援事業所などの介護分野から、社会福祉法人までをご支援。株式譲渡・事業譲渡・持分譲渡など多様なM&Aを手がける。

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