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介護事業の譲渡(売却)とは?方法・流れや法人格別の注意点を解説!

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はじめに

日本国内において、介護事業の第三者への譲渡を検討する経営者が年々増加傾向にあります。

事業を引き継ぐという決断は、経営者自身のためだけでなく、現場で働く従業員の雇用や、日々サービスを利用する高齢者の生活を守るために非常に重要な選択です。 しかし、介護事業の譲渡には専門的な知識や複雑な行政手続きが伴うため、どのように進めればよいのか不安を抱える方も少なくありません。

本コラムでは、介護事業の譲渡が増えている背景から、具体的なスキームの違い、法人格別の注意点、そして成功に導くためのポイントまでを詳しく解説します。

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●このコラムのポイント

  • 介護事業の譲渡(売却)は、後継者不在や人材不足、経営環境の変化に対応するための有効な選択肢です。
  • 事業譲渡・株式譲渡・法人譲渡など手法によって、引き継ぐ範囲や手続き、リスクが大きく異なります。
  • 株式会社・医療法人・社会福祉法人など法人格ごとに注意点が異なるため、制度や許認可を踏まえた準備が重要です。

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 介護事業の譲渡(M&A・売却)が増加している背景

近年、介護業界において第三者への事業の譲渡やM&Aが活発に行われています。 その背景には、介護業界全体が抱える特有の課題や、経営環境の厳しさがあります。 介護事業の譲渡が増加している主な三つの要因について確認します。

慢性的な人材不足と採用難

介護業界では、長年にわたり慢性的な人材不足が深刻な課題となっています。求人を出しても思うように人材が集まらず、事業の拡大だけでなく、現在のサービス体制を維持することに苦労されている事業者様も少なくありません。人員基準を満たせなくなると、施設の稼働率を意図的に制限しなければならず、結果として売上が大きく低下します。このように、人材不足が原因で健全な経営が困難になり、体力のある法人へ事業を譲渡するというケースが増えています。

経営者の高齢化と後継者不在

介護保険制度が開始された2000年当初に事業を立ち上げられた経営者様の多くが、リタイアの年齢を迎えています。 しかし、親族や社内に事業を引き継げる適切な後継者がいないという問題に直面するケースは少なくありません。 事業をそのまま廃止してしまえば、長年苦楽を共にしてきた従業員が職を失い、サービスを頼りにしている利用者様の行き場がなくなってしまいます。 そのため、従業員の雇用と利用者の生活環境を守るための最善策として、第三者へ事業を譲渡する手段が選ばれています。

介護報酬改定による経営環境の悪化

介護事業の収益は、国が定める介護報酬制度に大きく依存しています。 介護報酬改定によって基本報酬の減算や、加算取得要件の厳格化が進む中、介護事業者は常に変化へ対応し続ける経営が求められています。

さらに、近年は建築費や光熱費の高騰も加わり、利益を確保することが困難な時代に突入しました。このような厳しい現実を前に、単独での経営に見切りをつけ、より安定した経営基盤を持つ企業へ事業を譲渡する動きは今後も加速していくと考えられます。

介護事業を譲渡する2つの方法とスキーム

介護事業を第三者に譲渡する際には、主に「株式譲渡」と「事業譲渡」の二つの手法が用いられます。 それぞれのスキームには明確な違いがあり、法人の現状や経営者の希望に合わせて最適なものを選択することが求められます。 ここでは、代表的な二つの手法について解説します。

比較項目株式譲渡事業譲渡
対象範囲会社そのもの(法人格、負債、従業員などすべて)売手が指定した特定の事業のみ
許認可の扱いそのまま引き継がれるため行政手続きは最小限新規に取得し直す必要があるため手間がかかる
負債の扱い帳簿外の隠れた負債も含めてすべて引き継がれる指定した負債以外は引き継がれないことがほとんど
譲渡対価の受取人株式を保有している株主(オーナー経営者など)譲渡対象となる事業を運営していた法人
手続き上の負担比較的スムーズに進めやすい従業員の再雇用や利用者との再契約が必要

株式譲渡(法人格を承継する)

株式譲渡は、法人が発行している株式を譲受企業に買い取ってもらうことで、経営権をまるごと移転する手法です。 法人の権利義務や各事業の許認可、従業員との雇用契約などがそのまま引き継がれるため、行政手続きを大幅に省略できます。 ただし、譲受側にとっては、売手の帳簿に載っていない簿外債務や未払い残業代などのリスクを引き継ぐ恐れがあるため、事前の調査(デューデリジェンス)が厳格に行われます。

事業譲渡(特定の事業のみを承継する)

事業譲渡は、法人が運営する特定の事業部門のみを切り離して譲渡する手法です。 複数の介護サービスを展開している法人が、人材不足で維持できない部門だけを手放したり、不採算事業を切り離して本業に集中したりするために用いる手法です。

この手法では、買手側は引き継ぐ資産と負債を選別できるため、不要なリスクを回避できるという利点があります。 その一方で、介護保険の指定許認可は原則として自動承継されないため、買手側で新たな指定申請や変更手続きが必要となるケースが一般的です。

~株式譲渡と事業譲渡の選び方 ~

どちらの手法を選ぶべきかは、何を優先するかによります。 経営から完全に退き、リタイアを望む場合には、手続きの負担が少ない株式譲渡が選ばれる傾向にあります。 対照的に、一部の事業だけを切り離して会社の存続を図りたい場合や、買手側のリスクに対する懸念を払拭して交渉を円滑に進めたい場合には事業譲渡が有効です。 どちらの手法でも従業員の再雇用手続きや利用者との再契約といった実務上の負担を考慮しながら、専門家の意見を踏まえて慎重に判断することが重要です。

【法人格別】介護事業を譲渡する際の注意点

介護事業を運営する法人の形態は多岐にわたり、それぞれ適用される法律が異なります。 法人格によって譲渡のルールや制約が大きく変わるため、自身の法人がどのような性質を持っているのかを正しく把握しておく必要があります。 法人格ごとの基本的な対応方針は以下の通りです。

法人格の種類譲渡手続きの難易度主な譲渡スキーム譲渡における注意点と特徴
株式会社
有限会社
低〜中株式譲渡、事業譲渡手続きの自由度が高く、譲渡対価は株主に直接支払われます。
社会福祉法人理事等の交代による実質的な譲渡営利を目的としないため、対価を伴う売却は原則として認められません。
医療法人
(持分あり)
出資持分譲渡株式会社の株式譲渡に近い形で、出資持分の対価を受け取ることが可能です。
医療法人
(持分なし)
理事の交代と退職慰労金の支給持分の譲渡対価を受け取れないため、退職慰労金という形式で実質的な対価を得ます。

■株式会社や有限会社を譲渡する場合

株式会社や有限会社の場合、事業譲渡・株式譲渡を柔軟に選択できます。 発行している株式を譲渡することで経営権を移転するため、当事者間で合意した価格での売買がスムーズに行われます。 多くの場合、オーナー経営者自身が株主であるため、支払われた譲渡対価は直接経営者個人の資産となります。 手続きの自由度が高く、譲受先の企業にとっても過去の運営実績をそのまま引き継げるというメリットがあるため、比較的マッチングが成立しやすい形態と言えます。

■社会福祉法人の場合

社会福祉法人は公益性が非常に高く、株式会社のような出資という概念が存在しません。 社会福祉法人の財産は「社会福祉事業のための公共的資産」と位置づけられているため、理事や創業者個人が自由に処分したり、売却益を取得したりすることはできません。

そのため社会福祉法人の場合は、評議員や理事の改選を通じて運営主体が交代する形がとられることがあります。また、事業譲渡や合併等の手法を用いることも可能ですが、社会福祉法人の資産は公益性を有するため、適正な評価額を著しく下回る条件での処分は資産流出とみなされる可能性があります。そのため、所轄庁の関与のもと、厳格な手続や審査が求められます。実際に承継や事業譲渡を検討する際には、必ず行政機関へ事前確認を行うとともに、専門家の助言を受けながら進めることを強くおすすめします。

■医療法人を譲渡する場合

医療法人も特殊な法人格であり、譲渡の際には細心の注意が必要です。 2007年の医療法改正よりも前に設立された「持分ありの医療法人」であれば、出資持分を譲渡することで株式会社と同様に対価を得ることが可能です。 一方で、法改正以降に設立された「持分なしの医療法人」は、出資持分が存在しないため直接的な対価を受け取ることはできません。 この場合、理事長退任時の退職慰労金等を活用した承継スキームが検討されるケースもありますが、税務・法務上の整理が重要となるため、専門家による慎重な対応が必要です。

介護事業の譲渡・M&Aの手順

介護事業の譲渡は、思い立ってすぐに完了するものではありません。 相手探しから始まり、条件交渉や詳細な監査など、複数の段階を経て慎重に進められます。 全体の手順と目安となる期間をあらかじめ把握しておくことで、ゆとりを持って交渉に臨むことができます。

ステップ実施する主な内容
手順1. 専門家へ相談・条件整理秘密保持契約の締結、事業概要書の作成、譲渡条件の明確化を行います
手順2. 候補先の選定と面談匿名情報の開示から始まり、経営者同士が直接対話するトップ面談を実施します
手順3. 基本合意書の締結譲渡の基本条件に合意し、買手側に独占交渉権を付与します
手順4. 買収監査(DD)財務や法務などの専門家が、売手企業の潜在的なリスクを徹底的に調査します
手順5. 最終契約とクロージング最終的な条件を確定させて契約を結び、許認可手続きを経て代金の決済を行います

手順1 M&Aの専門家へ相談と条件整理

まずは、介護業界の事情に精通したM&Aの専門機関に相談し、自社の経営状況や希望する譲渡条件を整理します。 この初期段階で専門家とは秘密保持契約をしっかりと結び、外部へ不用意に情報が漏れないよう注意しましょう。 その後、専門家の協力のもとで法人の財務状況や運営体制をまとめた事業概要書を作成します。 初期のアプローチでは具体的な施設名を伏せた匿名資料を使用し、相手の関心度を探りながら慎重に譲受先を探す準備を整えます。

手順2 譲受候補先の選定とトップ面談

専門家のネットワークを通じて条件に合致する譲受候補先が見つかれば、改めて秘密保持契約を結んだ上で、詳細な企業情報を開示します。 双方が前向きに検討を進める意思を持った段階で、経営者同士が直接対面して対話するトップ面談が行われます。 トップ面談は、単なる条件交渉の場ではなく、お互いの経営理念や介護に対する思い、従業員への配慮などを確認し合うことが重視されます。 ここで確かな信頼関係を築くことが、その後の交渉を円滑に進めるための大きな鍵となります。

手順3 基本合意書の締結

トップ面談を経て双方が納得のいく感触を得られれば、基本的な譲渡条件をまとめた基本合意書を締結します。 基本合意書には、想定される譲渡価格や今後の具体的なスケジュール、従業員の処遇に関する基本方針などが記載されます。 また、この段階で買手側に独占交渉権が与えられることが一般的です。 独占交渉権が付与されると、売手は他の候補先との並行交渉を停止しなければならないため、相手を見極める非常に重要な節目となります。

手順4,5 買収監査(デューデリジェンス)の実施、クロージング

買収監査(デューデリジェンス)の結果を踏まえて最終的な条件交渉が行われ、問題事項に対する解決策が合意に達すれば、最終契約書が締結されます。 その後、事業の引き渡しを行うための実務的な手続きに入ります。 介護事業の場合、行政に対する許認可の変更手続きや関係機関への届け出が必要となるため、最終契約から実際の引き渡しまでに期間を空けることが一般的です。 すべての準備が整った上で、代金の決済と経営権の移転を行うクロージングが完了し、一連の譲渡手続きは無事に終了となります。

介護事業の譲渡価格(相場)の決まり方

事業を譲渡する際、自社が客観的にどれくらいの価格で評価されるのかは、経営者にとって非常に重要な関心事です。 企業価値の評価には明確な基準があり、複数の手法を組み合わせて適正な価格が算出されます。 企業価値算定における代表的なアプローチ方法を以下の表のとおりです。

アプローチの名称評価の基準となる指標メリットと介護事業における適性
コストアプローチ法人が保有する純資産の価値客観性が高く計算が容易なため、中小規模の介護事業所で最も頻繁に用いられます
└純資産価値に着目した評価方法=時価純資産+のれん方式など
インカムアプローチ将来生み出されると予測される収益収益力を適正に評価できますが、将来予測の不確実性が高いため慎重な判断が必要です
└DCF法など
マーケットアプローチ類似する上場企業や過去の取引事例市場の客観的な評価を反映できますが、完全に類似する企業を見つけることが困難です
類似会社批准方式など

譲渡価格を算定するアプローチ方法

企業の価値を算定する手法には、大きく分けて三つのアプローチが存在します。 一つ目は、法人が保有する現預金や不動産から負債を差し引いた純資産を基準とするコストアプローチです。 二つ目は、将来的に企業が生み出すと予測される利益やキャッシュフローを現在価値に割り引いて評価するインカムアプローチです。 三つ目は、類似する上場企業や過去のM&A取引事例の市場価格と比較するマーケットアプローチです。 介護事業の譲渡においては、客観性の高い純資産に過去数年分の利益を加算する手法が用いられることが最も多くなっています。

企業価値を高めるためのポイント

少しでも高い価格で譲渡を成功させるためには、買手から見て魅力的でリスクの少ない企業であることが求められます。 まず、介護福祉士や看護師といった有資格者の定着率を高め、安定した人員体制を構築しておくことが非常に高く評価されます。

また、日頃から未払い残業代の清算や社会保険の適正な加入など、法令遵守を徹底して不要なリスクを排除しておくことも重要です。 さらに、施設の修繕や備品のメンテナンスを定期的に行い、清潔感のある環境を保つことも、企業価値を引き上げるための大切な要素です。

介護事業の譲渡を成功に導くポイント

介護事業の譲渡は、単なるビジネスの売買ではなく、人々の生活と雇用に直結する非常にデリケートな決断です。 満足のいく形で事業を引き継ぐためには、いくつか守るべき鉄則があります。 成功に向けた重要なポイントと具体的な対策をまとめました。

成功するためのポイント×陥りやすい失敗例実行すべき具体的な対策
早期に専門家へ相談する資金繰りが限界に達してから焦って譲渡先を探し、足元を見られてしまう。経営にまだ体力と時間的なゆとりがある段階で、情報収集と将来プランの構築を開始する。
情報漏洩を徹底的に防ぐ社内で噂が広まり、不安を感じた従業員が次々と退職して事業価値が下がる。相談相手を限定し、正式な契約が完了するまでは社内への情報開示を一切控える。
雇用と処遇を最優先する経営者個人の利益だけを追求した結果、譲渡後に体制が崩壊して買手側へとのトラブルに発展する。買手企業に対し、従業員の給与水準の維持や利用者へのサービス継続を交渉条件に組み込む。

早い段階から専門家に相談する

事業の譲渡には、相談を開始してから実際に引き渡しが完了するまで、一般的には数カ月から一年程度の期間を要します。 経営状態が悪化し、資金繰りが限界に達してから急いで譲渡先を探そうとしても、交渉を有利に進めることはできません。 焦りを見透かされて不利な条件を突きつけられたり、最悪の場合は相手が見つからずに倒産を余儀なくされたりする可能性も考えられます。 そのため、経営にまだ余裕がある段階から将来の選択肢の一つとして専門家に相談し、万全の準備を整えておくことが成功の絶対条件です。

情報漏洩(秘密保持)を徹底する

譲渡に向けた交渉を進めているという情報が、正式な発表前に従業員や利用者に漏れる事態は絶対に避けなければなりません。 事業が身売りされるという事実と異なる不確かな噂が広まると、将来への不安から深刻な人材流出を招く恐れがあります。 従業員が一斉に辞めてしまえば、交渉自体が白紙になってしまうかもしれません。 相談する相手は役員などの必要最小限に留め、机の上の資料やパソコンのデータ管理にも細心の注意を払い、契約が完了するまでは秘密保持を徹底してください。

従業員の雇用と利用者の処遇を最優先に考える

介護事業の真の価値は、現場で日々汗を流して働く従業員と、サービスを心待ちにしている高齢者の存在にあります。 譲渡の条件交渉において、経営者自身の利益を最大化することだけにとらわれてはいけません。 従業員の給与水準や雇用条件の維持、そして利用者へのサービス水準の継続を第一の条件として相手側と交渉を行う必要があります。

さいごに

介護事業の譲渡は、単なるリタイアのためではなく、従業員の雇用や利用者の生活を守るための重要な経営判断です。 スキームや法人格ごとの特徴を正しく理解し、早めに準備を進めることが成功のポイントとなります。

また、将来的な選択肢を考えるうえでは、まず自社の企業価値を把握しておくことも重要です。 介護事業は、人材状況や稼働率、加算取得状況によって評価が大きく変わるため、専門家による価値診断を活用しながら、自社の現状を客観的に確認しておきましょう。

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※2026年3月末時点

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