茨城県笠間市で45年にわたり地域に親しまれてきた武藤医院。武藤直之様(以下、武藤様)は15年間の介護職経験を持ち、約2年前から同院の事務長としてクリニックの運営を担っています。
武藤様が今回立ち上げたのが、武藤医院と連携する高齢者住宅「KIGEN」です。現在はその運営法人の代表を務め、クリニックと高齢者住宅の連携を図りながら、地域の高齢者を支える新たな仕組みづくりに取り組まれています。
今回のインタビューでは、高齢者住宅の立ち上げを決断した背景や、オープンに至るまでの経緯、そして実際に運営を始めて感じたことについてお伺いしました。
武藤医院について教えてください。
武藤医院は、父が創業して今年で45年目になります。私が子供の頃からこの場所にあり、当時は周囲に他のクリニックも少なかったので、この町の人ならだれもが知っているような場所でした。
診療科目は内科と皮膚科で、昔から通ってくださっている患者様も多く、ごく一般的な「町医者」として長年診療してきました。
父も「45年間続けてこられたのは、ひとえに地域の皆さんが利用してくれたからだ」と常々話しており、まさに地域の皆さんに支えていただきながら歩んできたクリニックだと思っています。
高齢者住宅の立ち上げを考えたきっかけを教えてください。
長年通ってくださっている患者様の高齢化です。
患者様も70代、80代と年齢を重ね、身体的な理由から外来に来られなくなるケースが増えてきました。通院が難しくなると、入院や転院をきっかけに、それまで診てきた患者様とのご縁が途切れてしまうことも少なくありませんでした。
また、弟がクリニックを継ぎ、これから先の20年、30年を考えた時に「地域の患者様を最後まで責任をもって支えていくためには、訪問診療へ転換していく必要がある」と考えるようになりました。
ただ、訪問診療は事務手続きや体制づくりなど、実際に始めるまでのハードルが高いという現実もありました。そこで、いきなり外部へ訪問診療を広げるのではなく、まずは自分たちで高齢者住宅を持ち、訪問診療の形をつくり、確立した仕組みを外部へ展開していこうと考えました。
訪問診療へ移行していくための、いわば「ワンステップ」として今回の高齢者住宅の立ち上げを決断しました。
当社との出会いのきっかけを教えてください。
実は、CBヘルスケア(当時:CBリサーチ)と出会う前に、千葉県にある別のコンサルティング会社からもお話を伺っていました。その会社はサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)などの運営を手掛けていて、実際に現場も見学させていただきました。
しかし、経営面での魅力や「これだ」という確信を持つまでには至らず、導入するかどうか迷っていました。
そんな時に、お付き合いのある金融機関からご紹介いただいたのが、CBヘルスケアでした。銀行の担当者を通じて「県南ですでに1軒、成功事例があります」と伺い、一度お話を聞いてみることにしたのが最初のきっかけです。
初めて担当のコンサルタントの方にお会いしたときは、「ピリッとした、やり手の方だな」という印象でした。私は東京のコンサルタントの方とお付き合いした経験がありませんでしたし、コンサルというとよくない噂やイメージも正直ありますよね。そのため、最初は「東京のコンサルタントに騙されるのではないか」と、かなり警戒していました(笑)。
しかし、実際にやり取りを始めてみると、こちらのどんな些細な疑問にも誠実に答えてくださり、1日に何度も電話で質問しても、その都度丁寧に説明していただきました。そうしたやり取りを重ねる中で、少しずつ信頼感が高まっていきました。
自分自身が一つひとつ納得しながら準備を進められたことで、最終的には「この人たちなら、自分たちの事業を任せられる」と確信するようになりました。

高齢者住宅立ち上げに関して、不安や迷いはありましたか?
一番の不安は、「本当に経営がうまくいくのか」「借金を返していけるのか」「自分にどれくらいの取り分が入るのか」という、現実的な部分でした。
また、ドクターである父や弟に、この事業をどう理解してもらうかということも大きな課題でした。二人は「世の中の役に立っているのか」ということを何よりも大切にしています。
もちろん、事業として成り立つことと、地域や患者様にとって必要な事業であることは、完全に切り離せるものではなく、むしろ重なり合いながら成立しているものだと考えています。
ただ、私と父や弟では、気になるポイントが少しずつ違います。だからこそ、経営面だけでなく、武藤医院の運営や地域との親和性も含めて、この事業に取り組む意味をきちんと理解し、納得したうえで進めたいと思っていました。それを私一人で十分に説明し、家族で合意形成することに難しさを感じていました。
その際、担当のコンサルタントの方が何度も足を運んでくださり、さまざまな資料を時間をかけて説明していただいたことで、家族にも事業の経営面を理解してもらうことができました。
また、すでに開所されていた実際の運営現場を見学して、単価や介護請求の状況などを確認し、事前に提示されたシミュレーションと大きな差異がないことを自分の目で確かめることができ、「これはいける」という確認に繋がりました。
高齢者住宅オープン後の率直な感想をお聞かせください。
オープンから今日まで振り返って感じるのは、この住宅の形が、地域のニーズに合っていたということです。
市役所の方からも「この層*に向けた住宅が周辺になく、自宅で大変な思いをされている方が大勢いる」と伺いました。この住宅を作ったことで、地域住民の方々からも非常に多くの感謝の声をいただいています。
父からは以前から「お金を儲けるより、地域に還元する仕事をしなさい」と言われてきましたが、その教えをまさに形にできたと感じていますし、私自身も非常にやりがいを感じながら仕事をしています。
特にうれしく感じているのは、入居をきっかけに、ご本人やご家族に「笑顔」が増えることです。一般的な施設よりも月々の費用を3万円ほど抑えられていることで、ご家族にも気持ちの余裕が生まれているように感じます。面会の際にちょっとしたお菓子を持ってきてくださることもあり、そうした何気ない場面からも、入居者様との時間を穏やかに過ごされていることが伝わってきます。
また、ご本人やご家族が安心して、気持ちにゆとりを持って過ごせるようになることで、入居者様の生活そのものにも変化が表れています。例えば、病院にいた頃はミトン(身体拘束)が必要だった方が、精神的にも安定されたため、今ではミトンを必要とせず、自ら車椅子を操作して移動されています。
医療面でも大きな相乗効果を感じています。武藤医院が母体であるという安心感から、あくまでも自由選択であるにもかかわらず、多くの入居者様に訪問診療を選んでいただいています。以前通ってくださっていた患者様が「また武藤先生に診てもらいたい」と戻ってきてくださったケースもありますし、医療機関と連携している住宅だからこそ、点滴対応や緊急時の判断など、柔軟に対応することができます。
医療と高齢者住宅の連携をきっかけに、地域のケアマネジャーとの情報交換も以前より密になりました。武藤医院にとっても、地域医療の中心としての役割を改めて考えるいい機会になっています。
*要介護1・2を中心とした高齢者
オープン前に想定していたことと、実際に運営を始めて感じたギャップがあれば教えてください。
運営面でのマイナスのギャップは特にありません。担当のコンサルタントの方が営業活動のタイミングなどを先回りしてアドバイスしてくださったおかげで、非常にスムーズなスタートを切ることができました。
一方で、良い意味で驚いたことはいくつかあります。
一つは、営業に対する「反応の良さ」です。当初は、入居者の募集にもっと苦戦したり、月額利用料とは別に発生する介護保険サービスの利用単価の確保に苦労したりするのではないかと思ったのですが、実際は営業に行かなくても自然と入居が決まっていく月もあり、「この価格帯とサービスの組み合わせには、こんなにニーズがあるのか」と、想像以上の手ごたえを感じています。
また、集客ルートにも意外な発見がありました。当初は地元のケアマネジャーからの紹介が中心になると考えていましたが、実際は少し離れた地域のケアマネジャーや、近隣の老健(介護老人保健施設)からの紹介が多くありました。運営を始めてみたからこそ分かった、この地域のニーズや特徴だと思います。
今後の展望についてお聞かせください。
まずは2~3年以内を目安に2棟目の展開を考えています。私の体が動く限り、地域の皆様が安心して暮らせる場所を増やしていきたいと思っています。
3棟目以降については、その時点で改めて市場調査を行い、慎重に判断していくつもりです。ただ、地域にニーズがあるのであれば、これからも挑戦していきたいという思いを強く持っています。
また武藤医院としては、今後さらに訪問診療を強化していくことが重要だと考えています。外来患者数が減少していく中で、自分たちで住宅を持つことで訪問診療の基盤を作れるこのモデルは、武藤医院にとっても大きな強みになります。
住宅が増えていけば、クリニックの活動の幅も自然と広がり、医療と介護の連携による相乗効果もさらに生まれてくるのではないかと思っています。
父の教えである「地域に還元する仕事」を念頭に置き、医療と介護が一体となって地域を支える仕組みを広げていくことで、地域の皆様が安心して暮らせる環境をつくっていきたいと思っています。
















