
はじめに
現在、日本の多くの地域では外来患者数がピークを迎え、減少局面に入っています。
また、2040年頃を見据えた医療提供体制改革が進むなか、クリニック経営は「専門性に依存したモデル」から「地域に必要とされる医療」が評価される時代へと、大きな転換期を迎えています。
このような環境変化を踏まえ、2026年6月17日(水)・18日(木)に医療経営者を対象に「5年後の外来減少を勝ち抜く「医住連携」の決断 患者が途切れない「仕組み」づくり 高齢者住宅という次の一手」と題したオンラインセミナーを開催しました。
本セミナーでは、外来患者数の減少という課題を踏まえ、持続可能なクリニック経営を実現するための「地域全体を見据えた経営」に焦点を当てました。なぜ今、外来中心のクリニック経営に「住まい」の視点が求められるのかを解説するとともに、患者との関係性を維持し、地域に選ばれ続けるための経営戦略である「医住連携(いじゅうれんけい)」について、具体的な事例を交えながらご紹介しました。
\2040年に向けて、自院のエリアはどう変化する?/
セミナー概要
本セミナーでは、人口構造の変化を踏まえた最新の市場予測をはじめ、今後クリニック経営において重要となる「患者との接点の持ち方」から、具体的な事業展開の成功事例までを体系的に紹介しました。
- 登壇者:株式会社CBヘルスケア 戦略支援事業本部 戦略支援課 法人担当 係長 赤羽七美
- 講演テーマ
1、先生のクリニックも例外ではない 外来患者が自然消滅する構造
2、患者が途切れない「仕組みづくり」 医住連携という新たな選択肢
3、高齢者住宅を起点とした事業展開の事例紹介
外来需要の減少で変わるクリニック経営
外来需要の減少と2026年度診療報酬改定が示す転換点
日本の総人口は2010年頃をピークに減少へ転じており、高齢者人口も2043年頃にピークを迎えると推計されています。
クリニック経営において特に重要なのは、高齢者人口が増加する一方で、2030年以降は全国的に外来需要が減少へ転じると予測されている点です。対照的に、在宅医療や介護の需要は2050年頃まで増加が続くと見込まれており、これまでの「外来患者を待つ」経営モデルは構造的な転換期を迎えています。

こうした社会環境の変化を受け、国が進める「新たな地域医療構想」や2026年度診療報酬改定では、「病院完結型医療」から、医療・介護・福祉が一体となって地域を支える「地域完結型医療」への転換が一層推進されています。診療報酬の方向性も、外来診療単独ではなく、在宅医療や地域連携、多職種連携を評価する内容へとシフトしています。
これからのクリニックには、診察を提供するだけでなく、患者の生活全体を支える医療を地域の中で実践し、継続的な関わりを築くことが求められます。
今後は、そのような「地域完結型」の医療提供体制を構築できるかどうかが、クリニックの価値を左右する重要な要素となっていくでしょう。
“地域連携時代”に変わる医療機関の選ばれ方とは?
2026年度診療報酬改定では、「地域連携の強化」が重点項目の一つとして掲げられています。一方で、外来中心のクリニックにとっては、長年診療してきた患者が入院や施設入所を機に関係が途絶えてしまうことが、大きな経営リスクとなっています。
入院後は受療動線が変化しやすく、一度地域の医療ネットワークから離れた患者が再び自院へ戻るとは限りません。特に介護老人保健施設(老健)では、「入所中はかかりつけ医の受診を休止する」といった運用が行われるケースも多く、長年築いてきた患者との関係性が、仕組みによって途切れてしまう現実があります。
さらに近年では、高齢者住宅において、患者本人ではなく住宅の運営事業者が連携する医療機関を選択するケースが増えています。自院が患者の「生活の場」に関わっていなければ、住宅事業者の判断や連携体制によって、知らないうちに「かかりつけ医」としての役割を失ってしまう可能性があります。
本セミナーでは、このような患者の生活拠点の変化に伴って生じる「患者離脱」は、外来診療だけでは解決できない構造的な課題であると指摘されました。地域連携が進むほど、医療機関と住宅事業者との連携が重要性を増し、患者が医療機関を選ぶだけでなく、住宅事業者とのネットワークが患者との継続的な関係性を左右する時代へと変化しているのです。
クリニック経営を変える「医住連携」という新たな戦略
住宅を起点に築く切れ目のない医療提供体制
こうした課題を解決する手段として、本セミナーで紹介されたのが、医療と住まいを連携させる「医住連携」です。
クリニック自らが高齢者住宅などの「生活の場」の運営に関わることで、患者が加齢や環境の変化によって通院が困難になった場合でも、継続的な医療を提供できる体制を構築します。患者との関係性を維持しながら、外来・在宅・施設を切れ目なく支える仕組みを実現できる点が大きな特徴です。

また、住宅という「生活拠点」を持つことは、2026年度診療報酬改定で重視される「医療・介護連携」や「多職種連携」の強化にもつながります。住宅を起点に、在宅医療や施設医療、さらには紹介・逆紹介までをグループ内で循環させることで、地域における連携体制をより強固なものにすることが可能になります。
さらに、住宅を地域連携の中心とすることで、退院予定などの情報を早期に把握できるほか、多職種や他機関との情報共有も円滑になります。その結果、クリニックは地域医療ネットワークの中心的な役割を担い、患者に継続的な医療を提供しやすくなります。
本セミナーでは、医住連携は単なる事業の多角化ではなく、診療報酬改定の方向性にも合致した、持続可能な医療提供体制と安定した経営基盤を構築するための重要な経営戦略であると紹介されました。
<事例紹介>医住連携で実現する「患者が途切れない仕組み」
本セミナーでは、「患者が途切れない仕組み」を実現する具体策として、高齢者住宅を起点とした地域連携モデルが紹介されました。患者が生活の場を移しても継続的に医療を提供できる体制を構築することで、地域のなかで長期的な関係性を築く考え方です。
高齢者住宅市場で高まる「需要」と「供給不足」
高齢化の進展に伴い、一人暮らしの高齢者や老老介護世帯は今後さらに増加すると見込まれています。一方で、高齢者住宅市場では、住宅事業者側の収益構造と入居者ニーズとの間に大きなギャップが生じています。
多くの施設では、建設コストなどの影響から利用料が高額になりやすく、一般的な高齢者が望む「年金受給額の範囲内で暮らせる住まい」は十分に供給されていません。
そのため、年金受給額の範囲内で安心して暮らせる高齢者住宅を整備することは、地域課題の解決につながるだけでなく、地域で継続的な医療提供を目指すクリニックにとっても新たな事業機会となることが紹介されました。
地域のニーズに応える高齢者住宅モデル
講演で紹介した事例では、建築コストの最適化や効率的な運営体制により、一般的な高齢者施設では月額平均約17万円程度かかるところ、食事代込みで月額約10万円という利用しやすい価格設定を実現しています。こうした事業モデルにより、高い稼働率を維持しながら、早期の投資回収と安定した事業運営の両立が可能になると紹介されました。
また、高齢者住宅を患者の生活拠点とすることで、外来診療から在宅医療、さらには看取りまで切れ目のない医療提供体制を構築できる点も大きな特徴です。患者が生活の場を移しても継続的な医療を提供できるため、患者との関係性を維持しながら、継続的に支える仕組みを実現できることが示されました。

患者とのつながりを維持する高齢者住宅の役割
高齢者住宅を運営する最大の価値は、「住宅」という生活拠点を起点に、患者との接点を継続できることです。
患者が加齢や病状の変化によって生活の場を移しても、外来診療から在宅医療、施設医療、さらには看取りまで、一貫した医療提供を行うことができます。また、患者の生活環境に関わることで、医療・介護との連携を強化し、継続的な支援体制を構築することも可能になります。
このように「患者が途切れない仕組み」を構築することが、外来患者の減少という構造的な変化に対応し、地域で選ばれ続けるクリニックを実現するための重要な経営戦略であると解説されました。
仕組みを形にした経営者の声
本セミナーで紹介した「医住連携」モデルを実際に検討・導入された法人様のインタビューを公開しています。
導入の背景や検討プロセス、事業にかける想いをお話しいただきました。現在は地域ニーズを捉えた安定経営を実現されている法人様の生の声を、ぜひご覧ください。
インタビューはこちら
「地域の患者様により満足のいく医療や介護サービスを提供したい」高齢者向け住宅オープンによる新たな挑戦
さいごに
本セミナーでは、外来需要や地域医療を取り巻く環境の変化を踏まえ、これからのクリニック経営に求められる視点について解説されました。
講演では、単に病気を治療するだけでなく、患者の生活全体を見据えながら「地域に必要とされる医療」を継続的に提供していくことの重要性が示されました。
また、外来需要の減少という構造的な変化に対応するための具体的な経営戦略として「医住連携」が紹介されました。患者の生活拠点まで視野に入れた医療提供体制を構築することで、患者との関係性を築き、地域の中で選ばれ続けるクリニックを目指す考え方です。
今後のクリニック経営においては、地域の将来像や患者ニーズを見据えながら、持続可能な医療提供体制をどのように構築していくかが、ますます重要になっていくでしょう。
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